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狩野養川院惟信
源氏物語図
Kano Yosenin Korenobu
The Tale of Genji
掛軸 絹本 各106cm×41cm(総丈各207cm×56,5cm) 箱入
作品の状態について
画面、表装ともに良い状態です。
優美で繊細な描写が魅力の源氏絵です。
右幅には「夕霧図」、左幅には「浮舟図」が描かれ、秋と冬の景色が取り合わされています。
右幅は、柏木の未亡人・落葉の宮に恋い焦がれ、宮のいる小野の山荘で夕日を眺め、扇をかざし物思いに耽る夕霧を描いています。
あたりの情景は秋の色が深まっており、梢の葉も散り、田畑の稲は陽光を受けて輝いています。山荘の小柴垣近くに寄ってきた鹿の愛らしい姿も見え、秋の情趣が感じられます。
夕霧は、鼻筋が通り、すっと切れ長の目が美しい姿に表され、気品が漂っています。背景の山々には紅葉が常緑樹に交じり、山肌を美しく彩っています。物語の情景を画面前景に表し、後景に奥行き豊かな空間を表す描写は、惟信が息子の狩野栄信と合作した名品「十二ケ月月次風俗図」(江戸東京博物館)に共通する特徴で、この図は惟信「十月 時雨に紅葉図」(「十二ケ月月次風俗図」のうち)を反転した図と基本的には同じ構図を用いています。
透明感のある紅葉の色合いが美しく、稲穂が揺れる繊細な描写ともマッチし、宮への想いに心乱れる夕霧の心情を表すようです。
繊細に四季の移り変わりを描き込むことで、惟信が得意とした名所絵の成果も取り入れており、登場人物の心情を重ね合わせる惟信の物語絵の特徴が読み取れます。
そうした特徴がより表れているのが「浮舟図」です。この図には、「宇治十帖」中の「浮舟」の中心場面の一つ、匂宮が船上で浮舟とひと時心を通わせる情景が描かれています。
宇治の山荘をあまり訪れず、あっさりしている恋人・薫に比べ、情熱的に愛情を表現する匂宮に浮舟は次第に心惹かれていきますが、薫は浮舟を京へ迎える約束をしたため、焦った匂宮は、大雪のなか再び宇治に赴き、浮舟を宇治川対岸の隠れ家へ連れ出しました。
この絵は、そうした浮舟の、二人の男性の間で揺れ動く心を繊細に、巧みに描き出します。
船頭と浮舟、匂宮を描く画面前景は源氏絵でよくある図柄ですが、画面後景には、惟信らしい情趣豊かな場面描写が見られます。
柳や樹木に積もる雪は細緻に描き込まれており、凍てつく空気を感じさせます。
船上の浮舟は下を向き、物思いに耽るようで、匂宮と目を合わせません。
匂宮の大胆な行動に戸惑っているようですが、彼女の周囲の情景に目を向けると、彼女が情熱的な求愛行動にでた匂宮に心動かされていることを連想させます。
背景の橋の欄干には雪が積もっていますが、粒上に積もる雪は、ところどころ月光に溶かされています。
雪に濡れることも厭わず、雪深い宇治の山荘を訪れた匂宮の情熱的な行動に、頑なな浮舟の心が解きほぐされていったことをうかがわせる描写です。
この作品の昔の持ち主は、松阪三井家。
江戸時代より続く豪商・三井家発祥の地に伝わった名品は、源氏物語の世界を情趣豊かに表し、現代の私たちを平安時代の美しく華やかな世界へといざなってくれます。(A)
作家について
狩野養川院惟信(1753-1808)は、江戸時代中期~後期の狩野派の画家。
狩野栄川院典信の長男で、木挽町狩野家の7代目。狩野栄信は子。
父から画を学び、父の死後は跡を継ぎ幕府の奥絵師となった。江戸城の障壁画...
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